元気にやっていますか?
私は相変わらず、曖昧な空白とともにふらふらする毎日です。
健体壮美なあなたのことだから大丈夫だとは思いますが、
くれぐれもお体にはお気をつけください。

2009/10/04

[小説]晴子情歌(上)


高村薫。
すばらしい、こんな情緒溢れる不条理さを書ける日本人小説家がいるとは。
母・晴子の手紙による回想と、息子・彰之の現在とが交互に語られる。
舞台は昭和末期だが、手紙による回想は大正、明治の風景を蘇らせる。時間の交錯が心地よい。
手紙による回想という手段で、それぞれの時代を彩る現実的な風景を晴子の視点で描くが、
それが情緒溢れるものであればあるほど、現在の彰之が映し出す「言葉のない暗黒」がオーバーラップして、不条理さを鮮明にする。
手紙の中の穏やかで単調な時間流れ、漠然とした柔らかい不安。それを彰之の「言葉のない暗黒」が引き立てている。
あるのはただ道筋を失った物思いの行ったり来たりと、些細な気分の浮き沈みだけではないか、濃くなっていく暗黒の正体は、磁場のように空気のすみずみに張り付いている自意識であり、それこそが不毛な運動にエネルギーを供給しているだけではないか。
日本、時代の流れ、三十そこそこの独身男、明晰な視点、嘔吐感。
きっとこんな要素がこの小説に強く惹きつけられる理由だ。

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